【スーダンの医療事情】薬局に並ぶ一箱の薬、その背景にあるもの
体調を崩したとき、日本では薬局で薬を買ったり、病院を受診して薬を処方してもらったりします。スーダンにも、病院や診療所、薬局があり、さまざまな医薬品が使われています。
では、薬はどのようにして、必要とする人のもとへ届くのでしょうか。薬局に並ぶ一箱の薬。その背景には、制度、輸入、外貨、価格、物流、燃料、交通、そして人の働きがあります。
スーダンにも、薬を支える仕組みがある
薬が安全に使われ、必要な場所へ届くためには、医薬品を管理し、流通を支える制度が必要です。スーダンにも、そうした仕組みがあります。 国家医薬品・毒物委員会(NMPB)は、医薬品などの登録や輸入、製造、保管、価格、輸送、使用などについて規制を行う国の機関です。現在の根拠法は2009年の「Medicines and Poisons Act」とされています。
また、WHOにはスーダンの「国民必須医薬品リスト(National Essential Medicines List)」の2019年版が掲載されています。必須医薬品リストとは、国の保健医療において優先的に必要とされる医薬品をまとめたものです。
つまり、スーダンでは「必要になったら、その場で何とか薬を探す」というだけではありません。医薬品を登録し、必要な薬を選び、調達し、流通させるための仕組みが以前からつくられてきました。
薬が「ある」ことと、薬を「手に入れられる」ことは違う
医薬品へのアクセスを考えるとき、「薬が存在する」だけでは十分ではありません。薬局に薬があっても、価格が高ければ購入できないかもしれません。薬局そのものが近くになかったり、そこまで移動できなかったりすることもあります。
「薬がない」という一言の中にも、さまざまな事情があります。
薬がない。
薬はあるけれど、高くて買えない。
薬局に在庫がない。
薬局が近くにない。
薬局まで行けない。
医薬品へのアクセスとは、こうした一つひとつの条件がそろって初めて成り立つものです。
薬が届くまでには、お金と物流が必要
薬局に薬が届くまでには、何が必要なのでしょうか。
スーダンの医薬品供給には、海外から調達される薬も含まれています。海外から医薬品を購入する場合、国際的な支払いに使える外貨が必要になります。スーダンでは以前から、医薬品を調達するための外貨をどう確保するかが課題となってきました。
WHOが紹介したスーダンの事例では、医薬品の調達・保管・供給を担ってきた国家医療用品基金(National Medical Supplies Fund:NMSF)が、海外から医薬品を購入するための外貨を確保する仕組みを設けていました。国連開発計画(UNDP)との連携では、国内で集めた資金を海外からの医薬品購入に使える外貨に交換する仕組みも利用されていました。
海外から薬を調達するためには、こうした資金の調達や国際的な支払い、輸入の手続きが必要になります。そして、海外から届いた薬も、そこで終わりではありません。輸送し、保管し、各地へ運び、医療機関や薬局まで届ける必要があります。保管するための電力や、車両を動かす燃料も必要です。
内戦が始まってからは、こうしたサプライチェーンにも大きな影響が出ています。2023年には、病院や薬局、プライマリ・ヘルス・ケア施設で必須医薬品の在庫が尽きる事態が発生しました。現在も、銀行システムの機能停止や輸送上の問題、安全上のリスクなどが、医薬品や医療物資を届ける際の障壁となっています。
一箱の薬が薬局に並ぶまでには、患者からは見えにくいところで、お金、輸入、保管、輸送など、さまざまな仕組みが動いています。
条件が厳しい中でも、薬を届ける
医薬品へのアクセスに課題があるからといって、供給する側の動きが止まっているわけではありません。
スーダンでは、内戦以前から医薬品を安定して供給するための仕組みがつくられてきました。その一つが、国家医療用品基金です。医薬品や医療用品の調達・保管・供給を担い、各地の医療施設へ届ける供給網を運営してきました。
2018年末の時点では、全国3370の医療施設のうち2780以上が、国家医療用品基金を通じた医薬品の定期的な供給を受けていたと報告されています。スーダンには、内戦以前から、医薬品を必要な場所へ届けるための供給網がありました。
医薬品を製造する企業もあります。2025年に発表された研究では、スーダンの医薬品製造・供給に関わる企業を調査し、内戦によって国内での医薬品製造が事実上停止する一方、製造から輸入へ切り替える動きが報告されています。
医薬品をつくること、海外から調達すること、保管すること、必要な場所へ運ぶこと。内戦によってこれまで通りにできなくなったこともありますが、その状況に合わせて方法を変えながら、薬を届ける取り組みは続いています。
村落部の診療所の治療場面
内戦によってすべてが始まったのでも、すべてがなくなったのでもない
スーダンの医薬品供給をめぐる課題は、2023年に始まった内戦だけが原因ではありません。内戦以前から、医薬品の価格や外貨の確保、供給体制などには課題がありました。そこに内戦が重なり、輸送や調達、医療施設の稼働など、さまざまな部分にさらに大きな負荷がかかっています。
内戦が始まってからも、医薬品の供給を支える仕組みがすべて失われたわけではありませんが、これまで通りの方法では医薬品を供給できない場面も生まれています。
薬局に並ぶ一箱の薬を見るとき、その背景には、薬そのものだけではなく、それを届けるためのさまざまな仕組みと人の働きがあることが見えてきます。
