【蚊、水、土壌……】スーダンの暮らしと感染症
スーダンでは、雨や気温、湿度などの気候条件が感染症と関わっています。水や衛生環境、地域の自然環境も、感染症の広がりに影響します。
マラリアやデング熱、コレラ、E型肝炎、マイセトーマ、住血吸虫症など、スーダンで対応が必要な感染症はさまざまです。予防や治療に加えて、病気や予防方法を伝えるための情報発信も行われています。
雨が降ると、蚊を気にする季節に
砂漠の国、というイメージを持つ方も多いかと思いますが、スーダンには雨季があり、地域によって雨の降り方や雨季の長さが異なります。雨が降ると、道路や地面のくぼみなどに水がたまり、蚊が繁殖しやすい環境が生まれます。気温や湿度などの条件も重なることで、蚊が媒介する感染症への注意が必要になります。
代表的なのがマラリアです。マラリアは、マラリア原虫を持つハマダラカに刺されることで感染します。発熱、寒気、頭痛、嘔吐、関節痛、筋肉痛などの症状が出て、重症化すると命を落とすこともあります。かつては日本でも「おこり」と呼ばれ広く流行していましたが、1960年頃には国内での感染はみられなくなりました。日本でもときどき話題にあがるデング熱も、蚊が媒介する感染症の一つです。
スーダンで暮らしていると、「マラリアにかかった」という話を何度も耳にします。発熱や強い頭痛があると、「マラリアかもしれない」と検査を受ける人がいるくらい、身近な感染症です。
スーダンで大きな負担となっているマラリア
マラリアは、スーダンの公衆衛生を考えるうえで特に重要な感染症です。WHOによると、2024年、東地中海地域で推計されたマラリア負担の44.6%をスーダンが占めています。スーダンは、同地域で最も大きなマラリア負担を抱えています。
そのため、スーダンではマラリアの予防や治療に向けたさまざまな対策が行われています。殺虫剤処理蚊帳の配布や、蚊の発生を抑えるための対策に加え、早期に検査を受け、必要な治療につなげることも重要です。
2024年11月には、スーダンで初めてマラリアワクチンの接種が始まりました。東地中海地域でマラリアワクチンを導入した最初の国でもあります。まずガダーレフ州と青ナイル州の15地域で接種が始まり、2025年10月末までに93万人を超える子どもが接種を受けています。
マラリア対策では、蚊帳を配るだけでなく、家庭を訪問して使い方を説明したり、感染経路や予防方法、治療を受ける場所について伝えたりする活動も行われています。
身近な感染症だからこそ、蚊との接触を減らし、予防し、症状が出たときには検査や治療につなげることが重要です。
蚊だけではない。水や衛生環境と感染症
スーダンで注意が必要な感染症には、水や衛生環境と関わるものもあります。
大雨や洪水などによって水源や衛生環境に影響が出ると、コレラなど、水を介して広がる感染症への対策が重要になります。コレラは、コレラ菌が腸に感染し、激しい水様性の下痢や嘔吐を引き起こすことがある感染症です。下痢がひどくなると脱水症状になり、数時間で死に至ることもあります。
経口補水液や、重症の場合には静脈内輸液などによって治療でき、適切な治療を受けられれば、多くの人が回復します。一方、紛争や洪水などによって医療へのアクセスや物資の輸送が難しくなると、必要な治療を受けるまでに時間がかかり、命を落とす危険が高まります。 そのほか、E型肝炎も、汚染された水や衛生環境と関係する感染症です。
スーダンでは2024年7月にコレラの流行が確認され、その後、18州すべてに広がりました。2026年3月3日、48日間にわたって新たな症例の報告がなかったことを受け、流行の終息が宣言されています。WHOによると、この流行では12万4,418人が感染し、3,573人が亡くなったと報告されています。
コレラへの継続的な対応として、2026年4月には、連邦保健省が農業・灌漑省、財務・経済計画省、WHOなどとともに、2026~2030年の国家コレラ対策戦略を開始しました。水や衛生環境に関わる対策を含め、複数の分野が連携してコレラの予防と対応に取り組む計画です。
感染症への対策は、医療機関で治療することだけではありません。安全な水を確保することや衛生環境を整えることなど、暮らしの環境そのものが感染症対策につながっています。
マイセトーマ、住血吸虫症……地域の環境と関わる感染症
スーダンには、地域の環境や暮らしと関わりの深い感染症もあります。
その一つがマイセトーマです。皮膚や皮下組織に感染し、時間とともに深部組織や骨にまで影響することがあります。スーダンでは世界的に見ても多くの症例が報告されてきました。
マイセトーマは、植物のとげなどによる小さな傷から原因となる微生物が入り込むことで感染すると考えられています。進行が遅く痛みが少ないこともあり、受診が遅れるケースが多いことが課題で、早期に発見して治療につなげることが重症化を防ぐうえで重要です。
住血吸虫症も、水との関わりが深い感染症です。寄生虫を持つ淡水に接することで感染し、長期化すると健康に影響することがあります。スーダンでは、感染が確認される地域を対象に、予防的な投薬などの対策が行われてきました。このほか、結核など継続的な対策が必要な感染症があります。
このように、スーダンで向き合っている感染症は、蚊や水といった環境に関係するものから、人から人へ感染するものまでさまざまです。それぞれの感染症に応じて、予防、検査、治療、継続的なケアなど、必要となる対応も異なります。
予防するための情報も、日常の中へ
感染症について知り、予防につなげるための情報は、さまざまな場所から届けられています。スーダン連邦保健省では、健康増進局(Health Promotion Directorate)などが一般の人に向けた情報発信を行っています。
新型コロナ(COVID-19)が広がった2020年には、市場やレストラン、カフェなどに予防を呼びかけるポスターを掲示したほか、FacebookやSNS、WhatsAppを通じても情報を発信しました。握手を控えることを呼びかける歌も制作され、ラジオやテレビ、SNSを通じて広められました。携帯電話へのSMSによる情報発信も行われ、100万人以上の利用者が対象となりました。
マラリア対策では、蚊帳の配布とあわせて、家庭を訪問して蚊帳の使い方を説明したり、マラリアの感染経路や予防方法について伝えたりする活動も行われています。
近年のコレラ対策では、アニメーションを使った一般向けの啓発動画も発信されています。「コレラは危険な病気。知って、予防しよう」と呼びかけ、連邦保健省のWhatsAppチャンネルも案内しています。
コレラ予防の啓発動画(スーダン連邦保健省)
市場の掲示物、スマートフォンに届くメッセージ、家庭での説明、歌やアニメーション。感染症についての情報は、さまざまな形で人々の日常に入ってきます。
「マラリアかもしれない」と検査を受けることも、蚊帳を使うことも、コレラの予防方法を知ることも、感染症と付き合いながら暮らすための具体的な行動です。感染症への対策は、人々の日々の判断や行動ともつながっています。
