【塗らずに浴びる香水!?】”おふくろの味”ならぬ”お母さんの匂い”

BEAUTY・FASHION
【塗らずに浴びる香水!?】”おふくろの味”ならぬ”お母さんの匂い”

気温40℃を超える日も珍しくないスーダン。強烈な日差しの下、人々は大量の汗を流しながら暮らしています。そんな環境の中で驚かされるのが——

人々がいつも、とても良い香りをまとっていることです。

香りの好き嫌いの話ではありません。スーダンの香り文化は、美容、礼儀、宗教、家族、そして夫婦関係にまで深く結びついた、長い歴史を持つ生活文化なのです。

家ごとに違う「うちの香り」——バフール文化
香木のチップ

家ごとに違う「うちの香り」——バフール文化

スーダンの香り文化を語るうえで欠かせないのが、バフール(بخور / Bakhoor)。

香木のチップを天然オイルやムスク、花の香油などに漬け込み、炭火で焚く薫香です。

サンダルウッド(白檀)やクローブ、花の香油など天然素材を使ったものも多く、面白いのが、家庭ごとにレシピが違うこと。

日本には”おふくろの味”という言葉がありますが、スーダンには「お母さんの匂い」があります。子どものころから体に染み込んだ、その家特有の香りです。

バフールは気持ちのよい香りのためだけではなく、煙が蚊や蝿を遠ざける効果もあります。特に雨季は、感染症を媒介する蚊が増え、虫対策は切実な問題です。香り・清潔感・おもてなし・虫除けを同時にこなす、暮らしに欠かせない存在です。

塗らずに浴びる文化——ドゥハーン
香りのある煙で体を燻す

塗らずに浴びる文化——ドゥハーン

香り文化の中でも特に驚かれるのが、ドゥハーン(دخان / Dukhan)。アラビア語で「煙」を意味します。その名の通り、香りのある煙で体を燻(いぶ)す、いわば「香りと煙のサウナ」です。炭火の上にアカシアやサンダルウッドを置き、その煙を厚い布の中に閉じ込めて、全身に香りを染み込ませます。

さらにその前後に香り付きオイルやスクラブを使って、肌そのものに香りを重ねていきます。

例えば結婚式の前には、ドゥハーンや香油、バフールなどを用いて花嫁の身体や衣服に香りを重ねていきます。こうした準備は数日かけて行われることもあり、結婚式当日は花嫁自身も会場も香りで満たされた状態になります。

スーダンでは、香りを暮らしや美容に取り入れる文化が受け継がれてきました。ドゥハーンもまた、そうした香り文化を象徴する習慣のひとつです。

なぜここまで香り文化が発達したのか?
お茶屋さんで飲み物と一緒にサーブされるバフール

なぜここまで香り文化が発達したのか?

スーダンでは、様々な香りを日常的に用いる文化が広く見られます。その背景には、気候や宗教、交易の歴史など、いくつかの要素が関係していると考えられています。

  • 気候と生活習慣:スーダンの多くの地域は高温で乾燥した気候に属しています。こうした環境では、汗や生活臭を和らげる目的で香りが用いられてきました。特に女性の間では、香木を焚いた煙で衣服や身体に香りを移す「ドゥハーン」の習慣が現在にも続いています。
  • イスラーム文化の影響:スーダンではイスラームが社会や生活文化に大きな影響を与えています。イスラム教では清潔が重視されており、香りをまとうことについても、預言者ムハンマドの言行(ハディース)の中で好ましいものとして語られています。礼拝前に身体を清潔に保つ習慣とあわせて、香りの文化も生活の中に根付いていきました。
  • 交易による香料文化の広がり:スーダンはナイル川流域と紅海圏を結ぶ地域に位置し、古くから周辺地域との交易が行われてきました。紅海交易を通じて、アラビア半島や北アフリカとの文化的交流も続いており、香料や香木、香油などが流通していたことが知られています。こうした交流の中で、地域独自の香り文化が育まれていきました。

このように、スーダンの香り文化は、気候・宗教・交易・歴史的背景が重なりながら形成されてきた生活文化の一つと考えられています。

ちなみに現在のスーダン北部には、古代ヌビア文明やクシュ王国、メロエ王国などが栄えていました。古代エジプトやヌビアの地域では、宗教儀礼や日常生活の中で香料や香油が使われていたことが考古学的にも確認されています。現代スーダンのドゥハーンとの直接的な連続性については不明瞭ですが、香り文化がこの時代既にあったことは面白いですね。

香りとともにある人生
衣服に香りをつけている様子

香りとともにある人生

スーダンでは、バフールで家を清め、ドゥハーンで体を整え、香水のレシピを母から娘へと受け継いでいきます。香りは装飾ではなく、美しさ・礼儀・愛情・記憶・家族・共同体を表現するものです。

暑い気候の中で、人々は古くから香りを暮らしに取り入れてきました。香りは身だしなみや快適さを整える役割も果たしてきたのです。

もし今後あなたが「スーダン」と聞いたとき、

“バフールの煙が漂う家”
“香りをまとった花嫁”

のイメージが加わったなら、きっともう、スーダン文化への扉は開いています。