「平和」の維持には高いコストがかかる~スーダンからのメッセージ~
スーダンで軍事衝突が始まって半年余り。
世界ではスーダン以外でも、悲しいニュースが流れています。
日本人や外国人の多くは安全なところに待避しましたが、スーダンには多くの人々が残り苦しんでいる状況です。そして、ほとんどの人が戦いを望んでいません。高校の時に日本の学校に留学したゼインさんも声を大にして非戦を訴えています。彼は日本のことが好きで、内戦前にはスーダンで困った日本人をいつも助けてくれていました。理事長の川原が待避する際、「医者であることを絶対に言ってはいけない、捕まってしまうから。」と助言をくれたのも彼です。
昨年の秋、ゼインさんが日本にきました。留学先の自分の母校で、「スーダンにはリハビリという概念がない、だから、スポーツ選手は怪我をしたら、エジプトで診てもらうか、その費用がなければ選手生命を諦めるしかない。自分はスーダンにもリハビリができる施設を作りたい。」と、先生たちや生徒たちに夢を力強く語っていました。スーダンに戻ってからも、自分の夢を語るゼインさんの顔は輝いていました。
テレビで知った軍事衝突の始まり
そんな彼が、軍事衝突が始まったことを知ったのはテレビでした。「まさか、何の冗談?えー?」と思いながらも、命の危険を感じ、家族や仲間と共に、戦地となった首都のハルツームから180キロ離れたところに逃げたそうです。電話で話した声には全く覇気がなく、「家族は無事、自分の店はどうなっているかわからない。食事も3食取れないけれど、大丈夫」と力なく言っていました。
そんな中、送ってくれたメッセージビデオで彼はこんなことを言っていました。「日本で生活して学んだ言葉がある。それは『これから』という言葉だ。日本人はどんな状況でもこれからどうしたらいいのかを考えて前に進んでいく。自分もそういった日本人の精神をスーダンで広げて、頑張っていきたい。」と。私たちが気付かない日本人の良さを彼は教えてくれました。
これが戦争というものです
内戦が始まって4ヶ月ほどたった頃、ゼインさんの母校から講演の話がありました。講演内容を相談していく中で、生徒たちにスーダンにいる卒業生のゼインさんからの生の声を届けることが有意義ではないかということになり、日本とスーダンを繋いでの講演を行うことになりました。
ただスーダンは電波が弱いので、オンラインでのビデオ講演よりも音声のみの講演にし、映像は前もって送ってもらって準備を進めていきました。しかし講演当日、直前で電波が繋がらなくなりました。3分前までLINEで「もうすぐ電話します」とやりとりしていたのですが……。
ゼインさんと連絡が取れたのは、2時間後。彼からのLINEには、「戦争が始まってから電波はいつもこうです。母校の後輩たちと話をするのを楽しみにしていたのに。本当にすみません。でも現在のスーダンはこんなものです」とありました。アフリカだから繋がりにくいと思っていましたが、違っていました。「これが戦争というものです」とゼインさんは言っていました。
平和を守ることは簡単ではない、高いコストがかかる
ゼインさんが高校生に伝えようとしたこと、それは彼が日本で学んだ「これから」ということを考え、前に進んでいることでした。ハルツームにあった彼の店も商品も全て失ってしまったけれど、新しい土地で、今の自分たちにできることを考え、店を自分たちで準備しているということでした。
「日本は今平和なので、チャンスがたくさんある。だから、チャンスがあるのなら、頑張ってほしい。いつ、どうなるかわからないから、今のこのチャンスを大切に」と。そして、もう一つ、「平和・安全を守ることは簡単にはできない、高いコストがかかる」ということ。彼のメッセージは「この戦争が終わったら、まだ死んでなかったら、自分の国をもっと平和にするために頑張ります。」と締めくくられていました。
日本で暮らしていると、「平和・安全のコスト」なんて考えることもありません。よくアフリカの話をした後に、子ども達から「日本では医療や水・教育など当たり前のことがアフリカでは当たり前ではなかった」という感想をよく聞きます。その当たり前を維持するために多くの人だけでなく、多くの費用がかかっていることを再認識させられました。
「平和」の維持は大変だ、ということを意識する必要がある
それは「平和」についても同じことが言えます。日本では「平和」も当たり前と思っています。ゼインさんも「スーダンは貧しいけれど平和な国だと思っていた」と言います。でも、その平和は4月15日の朝、一瞬で崩れてしまいました。だから、「平和な国だと思っていてもいつどうなるかわからないから、平和を維持するのは大変だという意識を持つことが必要だ」と教えてくれました。
どうしたら平和な世の中を維持できるのか、みんなで考えていかないといけないと思います。そして、それぞれがお互いを理解し、平和な世界にしていきたいですね。
川原佳代