結核の早期発見にむけて一見えてきたポータブルX線装置の有効性
ロシナンテスはザンビアで、ポータブルX線装置を使って患者の早期発見を目指す事業を行っています。複数の医療施設で装置を共有し活動した結果、装置の有効性が検査データでわかってきました。
ザンビアでは未だ深刻な感染症
現在の日本では大きく話題にならない結核は、ザンビアでは未だに深刻な感染症の1つです。年間約5.9万人もの人々が感染し、発症者数は今も大きく減少していません。ザンビアでは、結核は男性の死因ランキングで6位、女性では7位となり、死亡原因としても主要なものとなっています。
この高い感染率は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者が多いことも一因です。HIV感染者は結核にかかりやすくなるため、両者の重複感染が頻発しているのです。2021年には、ザンビアの新規結核感染者の34%がHIV感染者であるというデータも明らかになっています。しかし、結核に感染しても、早期の発見と治療開始、薬の適切な服用により、8~9割の患者が完治へ向かうことがザンビアでも確認されています。
解決のかぎは早期発見
結核の早期発見には、喀痰検査、尿検査、およびX線装置で行う胸部X線検査が不可欠です。しかし中央州では、各郡には喀痰検査や尿検査の機器を備えた病院はあるものの、X線装置が配置されていません。そのため私たちの活動地であるチサンバ郡やチボンボ郡の医療施設は、主に喀痰検査・尿検査のみを実施してきました。しかしこれらの検査のみでは結核患者の見落としが生じる可能性があります。
喀痰検査の結果が陰性であっても、結核と疑われる症状が持続する場合は、X線検査が必要です。しかし、地元の住民はX線検査を受けるために首都や中央州の都市部まで数時間かけて自力で向かわなければなりません。家族の都合や経済的な理由などから地元を離れることが難しい場合も多く、結果として受診が遅れ、症状が悪化するケースが見受けられています。ザンビア政府のデータにおいても、年間約1.9万人の結核患者が見逃されていると報告されています。
ポータブルX線装置を試験導入
こうしたX線検査への医療アクセスを改善するために、ロシナンテスは富士フイルム株式会社の協力を得て、同社のポータブルX線撮影装置を試験導入するプロジェクトを始めました。
この装置は約3.5kgと非常に軽量で、スーツケースに入れて持ち運びができ、充電式であるため、場所に縛られず検査が行える仕様になっています。また、従来のフィルム式ではなくデジタル画像を用いており、撮影時間やフィルム現像時間も削減されます。結核診断に特化した人工知能の搭載で医師の診断のサポートも可能です。X線画像の保管と確認ができるクラウドシステムの導入で、インターネット環境があればどこでも画像が確認できる体制も整えました。
4つの施設で装置を共有
本事業の対象地域として、中央州チサンバ郡のリテタ郡病院と傘下医療施設であるチサンバヘルスセンター、そして同州チボンボ郡のムワチソポラ総合病院と傘下医療施設であるムワンジュニ診療所の4施設を選定しました。4施設間でX線装置を運搬し、共有することで、地域住民が容易にX線検査を受けられるようになり、結核患者の早期発見と治療へのアクセスの向上が期待されます。さらに、X線検査は結核で行う胸部検査だけではなく、手脚のけがなど他の用途にも使用するように各医療施設にお願いしました。
昨年5月にリテタ郡病院で運用を開始し、12月にはムワチソポラ総合病院との2施設間で装置を共有し運用できるようになりました。今年1月からは毎月の第1・3火曜日にチサンバ病院へ、第2・4火曜日にムワンジュニ診療所それぞれ運搬され、運用されるようになっています。
ヘルスセンターや診療所には放射線技師がいないため、X線装置の運搬時に放射線技師も共に派遣される仕組みとなっています。さらに、本事業の一環として、表計算ソフトを各医療施設に導入し、結核患者のデータを入力してもらうことで、結核患者の傾向を分析できる情報管理の体制も整えました。
従来の検査では見逃されていた結核患者を発見
これまでの成果として、4施設合わせて2,400人もの患者がX線検査を受診することができました。そのうち、1,010人の方が結核と疑われる症状がある患者で、結核の陽性者と診断された方は115名いました。特筆すべき点は、この115人の陽性者のうち、従来行ってきた喀痰検査では陰性だが、X線検査の結果陽性と判明した患者は74名もいたことです。これは全ての結核疑い患者の約7%もの割合です。今回のX線装置による試験事業により、従来の検査体制では見逃されていた結核患者を発見できるようになったことが、データから明確になりました。結核陽性者と診断された患者は全て治療を開始しています。
見逃しが起こりやすい幼児、高齢者、HIV感染者
今まで見逃されていた結核患者の傾向をさらに分析すると、特に幼児、高齢者、HIV感染者の見逃しが発生しやすい傾向にあると判明しました。これらの患者が見逃される理由として、幼児と高齢者は痰を上手く出せないため唾液が中心となり、検査結果が正確に出ない可能性があります。また、HIV感染者も結核菌への免疫反応が低下するため、結核菌を取り巻く膿ができなくなり、痰の量が減ってしまいます。これらの理由から、喀痰検査では、幼児、高齢者、HIV感染者の結核の見逃しが発生しやすいことがわかりました。
さらに、地域性を分析すると、人口が多い地域や人の移動が頻繁な交通の要所などに近い地域ほど感染者数が多くなるということもわかってきています。また、結核以外にも、このX線装置は肺炎の診断や骨折などの整形外科疾患の診断にも運用しました。特に本事業の医療施設はザンビアの主要道路に近いため、車の事故なども多く、こうした患者の診断にも効果的に運用されています。
X線検査の患者数が常に多いため、装置数を増やすこと、それに合わせて装置を共有する対象施設数を増やすことも視野に入れて、富士フイルム株式会社とも協力し、今後も活動を継続していきます。また、本事業で判明してきた結核患者の傾向に対して、中央州保健局、両郡の保健局と共に対策案を議論し、実行していくことを計画しています。