結核の早期発見を目指して ~ポータブルX線の活用事業報告会レポート
2024年1月21日にTKP小倉シティセンターにおいて「結核の早期発見を目指して ~アフリカにおけるポータブルX線の活用事業報告会」を開催しました。
現在ロシナンテスは、結核患者の早期発見を目指し、富士フイルム様が開発したポータブルX線撮影装置のテスト導入を行っています。導入を開始して半年が経ち、見逃されていた結核患者の発見やX線検査陽性者と年齢の相関、X線検査陽性者とHIV陽性者の相関など興味深いデータが蓄積されてきました。
本報告会では、これらのデータを踏まえて、ロシナンテス理事の高山よりテスト導入の進捗と今後の見通しを、理事長の川原よりザンビアでの活動についてをご報告しました。富士フイルム様よりポータブルX線の性能についてお話しいただきました。
途中、参加者の大学生とディスカッションする場面もあり、双方向型の非常に活発な議論場となりました。
ザンビアは結核高負荷国
現在の日本では大きく話題にならない結核は、ザンビアでは未だに深刻な感染症の1つです。WHOは、2035年までに人口10万人あたり10人以下の罹患率にするということを目標にしていますが、ザンビアでは10万人あたり319人。治療法は確立されているため、特に村落部において、いかに早期に発見するかが課題になっています。
ザンビアにおけるX線装置の地域格差
X線検査で結核が疑われたらPCR検査をする、というのが多くの国でのスタンダードです。しかしザンビアでは、資金の問題からX線検査が浸透しておらず、先にPCR検査をし、結核が疑われる場合には都市部までX線検査をしにいくことになっています。しかし、都市部まで向かうことが難しくX線検査を行わないケースや、PCRで陰性でも罹患していたケースなど、結核の見逃しが問題となっています。そこで、富士フイルム様のポータブルX線を村落部に導入することを試みています。
ポータブルX線で実現する『結核終息』
富士フイルム様が開発したXairという製品は、重量が3.5kgと軽く、受像する部分が非常に高感度であるため、小型ながらも高画質がキープされています。AIによる病変を検出するソフトウェアが組み込まれており、新興国などで医者がいない場合でも診断をサポートできる仕組みです。
すでに70カ国以上に導入されており、山岳地域や砂漠、離島など様々な場所で使用されています。最近では、トルコ・シリア大地震やウクライナの医療現場でも活躍しているそうです。
プライマリーケアへの貢献
2021年3月、WHOがX線検査とAIを結核検診に正式に推奨しました。これはポータブルX線が開発されたためです。
アフリカやアジアの途上国においては、診断機器や電力インフラ、医療人材といったプライマリーヘルスセンターのリソースが不足しています。そのため、高度医療を行わなければならない二次、三次病院において患者が溢れかえってしまっているという課題があります。
ポータブルX線をプライマリーヘルスセンターに配置できれば、結核の検診だけでなく、四肢の骨折や腹部など、全身のスクリーニングにも使用できます。またAIの診断サポートにより、医療人材の不足も補うことが可能です。
ザンビアにおける結核流行を抑制するために何ができるか?
ザンビアにおいては、HIV/AIDSという課題が非常に深刻で、結核にHIV/AIDSが合併しているという問題があります。そのため、ポータブルX線を持ち込めば解決、という単純な公衆衛生の話ではありません。こうした観点から、ロシナンテスの高山理事と、参加者の学生さんによるディスカッションが行われました。
〜学生とのディスカッション〜
高山:このテーマに関して、もし自分がNPOの代表だったらこうするというアイディアはありますか?
学生:まずは結核を発症している人の行動履歴を調査します。
高山:なるほど、いわゆる日本が得意とする積極的疫学調査ですね。行動履歴を洗ってその人を逆算で辿っていけば、そこに結核の芽があるはずだから、そこを叩いていこうということですよね。
学生:結核っていう病気のことについて知らない人も多いと思うので、そもそもどういう病気なのかっていうのを少し啓蒙活動的なことができるんじゃないかなと思います。
高山:きちんと教育して早期受診するように促そうというんですね。素晴らしい公衆衛生の視点から話をしてくれて本当にありがたい。今日はレントゲンの機器の話なんですけど、じゃあ機械持ち込もうっていう単純な話じゃないってところに気付いて欲しかったんですけども、すでに学生さんそこわかっておられる。他にはどうですか?
学生:あとは医療アクセスの部分で、もちろん教育も大切ですが、インフラ整備などもきちんと行っていく必要があるかと思います。
高山:実は保健医療の歴史を見ていた時に、どうしても病院整備とか、そういうとこに目が行くのですが、結局のところ日本の医療を良くしたのは道路が通ったからなんです。あとは、水道整備。ザンビアの場合も道が悪いんですよね。どんなにいい医療機器を導入しても、雨季で雨が降るともう行けませんとなってしまうと、患者さんたちの治療にはつながらないんです。
結核の診断と治療の遅れの要因分析をしたシステマティックレビューでは、臨床的特徴としてHIV感染や、社会心理的要因として伝統医療、社会経済的要因として医療アクセスの悪さや貧困問題が挙げられています。現地での信頼関係を築きながら、現地の人と一緒に結核と闘うとなったときに、医療アクセスや診断設備の部分のサポートはわかりやすい入り口ですよね。
ただ、WHOはPCRを強力に推奨しているものの、陰性だったときに「結核じゃないみたい」ということしか教えてくれない。今目の前で熱を出して咳をして苦しんでいる患者さんについてどうしたらいいのかということについては何の情報もくれないんですね。一方で、胸部レントゲンというのは肺炎があるのかどうか、どのような広がりなのかなど、疾病の特異的でないスクリーニングができる。結核以外のがんやCOPD、小児や高齢者の肺炎なども診断できますね。
今後のモバイルレントゲンの展開はどうあるべきか?
〜学生とのディスカッション〜
学生:導入されて半年なので、もう少しこのレントゲンが有用であるっていうデータは必要かなと。その上で、現地の医療スタッフや患者さんに、レントゲンが有用なものであると偏見なく思ってもらえるように啓発する必要があると思います。
高山:正直言ってレントゲンが有用かどうかっていう発想は多分ないんじゃないかと。お医者さんがレントゲン撮れって言ってるから行きましたっていう感じで、日本の高齢者だって、レントゲンがどれくらい治療において有用なツールなのかってことは、実はあまりわかってないと思うんだよね。だけど、こうして介入することによって、新たに診断される人たちが増えてきてるよ。だから、こういう介入することによって皆さんの村が守られるようになってきましたよってことをアピールするっていうことは、NPOとして大事かもしれないですね。
学生:レントゲンが生まれたことによって、結核の患者さんが見つかる確率高くなったと思うのですが、それに伴って仕事がなくなったりとか、そうした社会的なバックグラウンドが変わるので、そのモバイルレントゲンの展開を推し進めるのはもちろんなのですが、それと同時にその社会的な整備みたいなところを考えていく必要があると思います。
高山:素晴らしいですね。仰る通りで、我々は56人の新規のこれまで診断されなかった人たちを診断したのですが、56人の失業者を生んだとも言えるんですよ。だから、その人たちに対するサポートがきちんとできているのかどうか、偏見に晒されていないかどうか、きちんと治療にのって、社会復帰までに行けるかどうかについての確認の責任が生まれてきたっていうことが言えますよね。
学生:今後、モバイルレントゲンを持って、訪問診療のような診療が増えた場合、中核病院での医療人材の確保をどうするのかが僕の中で疑問に思ったところです。
高山:そのために我々NPOがいるんですよね。最終的にはザンビアの医療リソースで賄っていくべきなんですよ。だけどみんな半信半疑でいる。だから我々がプレイヤーとして導入して見せて、これによって実は健康が向上するし、医療への負荷も軽減していくんだということをアピールしていくということがNPOの役割なんです。
質疑応答
- 質問①:ポータブルX線の電力はどのように共有されているのか。
- 回答①:バッテリー内蔵式で充電したら、電源環境がない場所でも大体100枚程度の撮影が可能。付属のポータブルのパワーバンクに接続すれば、撮影中も同時充電が可能になるので、1日に最大2300枚程度の撮影が可能。
- 質問②:パソコンのコンピューティングはネットにアクセスせず、ハードウェアで全て行っているのか。また、ネットワークへのアクセスは難しいのか。
- 回答②:オフライン環境でもAIソフトウェアが稼働する仕様になっている。ザンビアなど地方部で診断する場合、ネット環境が充実していないので、あえてオフラインでAIを走らせる仕様になっている。もし、要望があれば、オンライン仕様にすることも可能。
- 質問③:ザンビア以外だと、どういったところに普及しているのか。
- 回答③:現在、70カ国に今導入をしている。日本やカナダ、欧州などでは、在宅医療や病院で使用されている。一方、途上国だと、主に結核のスクリーニング用途で活用されている。他には、トルコ・シリアの大地震やリビアの大洪水などの災害現場や山岳医療で使用されている。
- 質問④:最近、薬剤や注射器をドローンを使って輸送する取り組みが行われているが、ポートブルX線でもそうした取り組みはあるのか。
- 回答④:現時点ではないが、ポータビリティという面においてドローンは有用なツールであるため、今後、考えていきたい。
- 質問⑤:レントゲンで結核の確定診断となったのは、結核に典型的な陰影が見えた場合、追加でPCR検査をやって陽性となった割合なのか、それとも、レントゲンで陽性で結核の像が見えた件数を述べていたのか。
- 回答⑤:レントゲンで医者が陽性と判断しているだけなので、過剰診断の可能性もある。そのため、その後のフォローアップも行っている。そこの結果はまだ出ていないので、今後、報告していく。
- 質問⑥:ザンビアにおいて結核はどのようなところで蔓延しているのか。
- 回答⑥:ザンビア全体のデータとしては鉱山労働者が多いが、感覚としては一般の農業従事者が多いように感じる。地域に根ざした結核患者を拾っているように思う。
- 質問⑦:地元の保健省の許可を得る上で、JICAや国際機関の後だてがあったのか。
- 回答⑦:この事業は単独事業で、国際機関などの後だてはない。ただし、今後、ナショナルプロジェクトまで持っていくために、JICAや国際機関に紹介していくことを検討している。
- 質問⑧:ザンビアの方の費用負担はどれくらいか。
- 回答⑧:結核疑いに関しては無料で行っている。骨折などの結核以外の診療に関しては40クワチャ、240円ぐらい。これは、ロシナンテスが決めていることではなく、あくまで現地の病院が設定している価格。適正な料金だろうと考えて、我々も了承している。