ナミビア
ある日の思い出を一つ。
国際線で日本に向かっている時でした。
隣に座っている男性に声をかけると、ナミビアの方でした。
日本のとある大学に研修に行くとのことです。
ナミビアでは、政府の漁業担当で、この日本の大学には、漁業に関しての研修のようです。
話がはずみ、ナミビアの国のことなどに及びました。
とても小さな国で、人口は一千万にも及ばず、数百万とのこと。
ピグミー族がいて、自分のように背が低く、鼻の穴が広がっているなど・・・。
そのうちに関西空港に近づきました。
「どのようにして、その大学に行くんですか?」
「関西空港に泊まって、朝の飛行機で向かいます」
私は、ちょっと引っかかったので、
「航空券を見せて」
というと、私の不安どおりに、次の日の飛行機は伊丹空港の出発でした。
しかも、朝一番の飛行機なので、関西空港に泊まったとしても、伊丹空港へは間に合うかどうか分かりません。
関西空港へ到着しても、このまま放置できずに、空港の案内に向かいます。
案の定、関西空港から伊丹空港への連絡バスでは、その飛行機に間に合いません。
バスでなければ、乗り継ぎなどで難しいでしょう。
とすると、関西空港での宿泊(本人はホテルでなく、ソファーに寝ると言っていました)はありえず、梅田まで出て、ホテルに泊まり、そこからバスに乗らなくてはなりません。
これは、ちょっとやそっと説明しても、日本にはじめてきたナミビア人には、到底理解できないことでしょう。
「これも乗り掛かった船だ!」
大阪梅田あたりでの格安ホテル探しを始めました。
100円を入れて、インターネットで格安ホテルを探します。
そして、電話番号を探して、公衆電話から電話をします。私は海外へは、携帯を持っていかないので、いつも帰国、出国の時は公衆電話を利用します。そして、ホテルの受付へとつながります。
「今日の宿泊空いていますか?」
「はい、空いています」
「一名宿泊したいんですけど」
「これは、インターネットではないので、8400円になります」
「インターネットから予約したらおいくらですか?」
「5900円です」
「わかりました」
そうして、いったん電話を切って、再びインターネットに向かいます。
すると、別の外国人が私の使っていたインターネットを使っているではありませんか!
仕方なく、もう一枚百円玉を取り出し、インターネットで予約します。
彼からパスポートを見せてもらい、面倒なことをやっていきます。
私は、こういうことに疎いので、大変苦手です。
そうです、ほとんど私もアフリカ人です。
ようやく、予約できたと思って、再度ホテルに電話をかけます。
「インターネットを使って予約したのですが、ちゃんと予約が入っていますか?」
「予約はされていないようですね」
「インターネットの画面を見て、きちんと打ったのに、ダメでしたか、
もう電話をしているだからよいでしょう、インターネット料金で予約してください」
「それは、できません。電話での料金になります」
私の頭の中で「プチッ」と音がしました。
「もういいです!」
ガシャリと電話を切りました。
おかしな世の中のものです。
人件費を削減するために、インターネットでの予約を奨励し、それには私のような疎い人間には容赦なく、心の通った接客が出来なくなっているのでしょうか?
もちろん、インターネットがうまく使いこなせない私が悪いのでしょうが、納得がいきません!
私は意を決しました。
実家に電話をかけて、大阪の親戚の電話番号を聞きます。
そして、
「おばさん、久しぶりです。たったいま、アフリカから日本に帰ってきました。
突然で申し訳ありませんが、私とその友人を一晩泊めてください」
そのおばさんは、さぞ驚いたでしょう。
そして、私の家内に電話をかけます。
「ごめん、こんな事情で、今日は家に帰られなくなったよ」
「せっかく、お刺身を買って御馳走を用意してたのに・・・」
「ごめんね」
というわけで、ナミビア人の彼を連れて、枚方の私の親戚の家にお邪魔しました。
そして、彼を招いての宴会となりました。
彼は、スーダンのようなイスラム教徒でないので、ビールをしこたま飲んでもらいました。
彼は、この家のご主人に、ナミビアの写真集をお土産に渡します。
そして、一枚一枚写真の説明を行います。
おじさんは、日本の魂、大和魂をこのナミビア人に説きます。
小さな、本当に小さな日本・ナミビア外交です。
翌日、朝早くにおき(二日酔いでした)、彼と共に伊丹空港へと向かいました。
彼は、目的地へ、私は福岡へと向かいました。
私は、すぐに家には帰らずに、大きな荷物を抱えて、大学の図書館で調べ物をしました。
そして、ようやく家へとたどり着いたのでした。
「ごねんなさいね、私の奥様、いつもこんな調子で」
しばらくたって、彼からメールが来ました。
「あのときは、ありがとうございました。
日本の大学ではとても有意義な研修ができました。
そして、あの大阪での一夜は一生忘れません。
ナミビアにぜひともいらして下さい。
そのときは、十分におもてなしをいたします」
よーし!いつかナミビアに行くぞ!
川原尚行