医療NGOの活動を見学する前に・・・
医学部の学生さんが、卒業旅行でロシナンテスの活動見学にいらっしゃるとのこと。メールにて、いくつか事務的なやり取りをしつつ、「診療所での活動を見せてください」とのことについては、せっかくの旅行が期待外れになっては申し訳ないと、以下のようにお伝えしました。
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古典的な医療NGOのイメージとして、先進国の医師が途上国の村で診療している・・・ というものがあるかと思います。ただ、少なくともロシナンテス・ザンビアは、そうした活動はしていません。その意味では、皆さんには期待外れになるかもしれません。
主として取り組んでいるのは、周産期死亡を減らすことをアウトカムと設定した母子保健活動になります。その手段のひとつとして、安全な出産場所(トレーニングされた助産師のいるシェルター ≒ 助産院)を病院へのアクセスが悪い地域に設置しており、その運営を(できるだけ)住民主体で管理できるよう支援しています。
こうしたシェルターをモデルケースとして地方行政に示すことで、(私たちが関わることなく)他の地域にも拡がっていけばと期待しています。もちろん、完成された既成のシステムがあるわけではなく、現場での話し合いのなかでモデルケースを育てていかなければなりません。
また、ザンビアは世界のなかでも、かなり結核罹患率が高い国です。受診~診断~治療の流れが滞っており、どこに引っかかりがあるか解きほぐしながら、できるだけ円滑に治療につなげていく必要があります。とくにスティグマの問題は深刻であり、住民教育が重要なのですが、実のところ、教育の旗だけ振っているNGOはあまり信頼されません。
地元医療者のニーズは診断支援にあるため、早期診断が可能となるよう、モバイル型のレントゲン装置を導入できないか画策しています。ただ、先進機械をプレゼントすれば、それで結核医療が進展するわけもなく、それに伴う課題の洗い出しをしている状況です。ある程度、現場で維持管理できるようになっていただく必要もあります。
他には、水衛生の改善(井戸掘り)など、ヘルスケアの基本となる活動について、住民ニーズを見据えながら支援しているところです。適正技術の分析、評価指標の検討、他分野との連携、住民や行政官との話し合い、話し合い、話し合い・・・。
皆さんが来られても、いわゆる臨床医らしい活動をお見せすることはできません。1週間ぐらいおられても、私たちが何をやっているのか、サッパリ分からないかもしれません。
というわけで・・・ 「医療NGOの活動を見学するぞ!」ではなく、せっかくの卒業旅行ですから、「アフリカを楽しみに行くぞ!」って感じでいらっしゃるのをお勧めします。ザンビアを含めた南部アフリカには、素晴らしい自然と文化があり、陽気で逞しい人たちが暮らしています。
私たち医療NGOが向きあっているのは、そうしたアフリカにおける負の側面にすぎません。医療にアクセスできないで亡くなっていく人たち、結核、エイズ、周産期死亡・・・ 取り組むべき大切な課題ですが、ザンビアの人たちにとって、せっかく日本から来てくれる学生に、真っ先に見てほしいものとは思っていないでしょう。
壮大なビクトリアの滝、サファリの野生動物を見に来てください。伝統的なドラムのリズム、それを引き継ぐザムロックと呼ばれるポピュラー音楽に体を動かしてみてください。美しい自然にふれ、歴史を知り、文化を味わうこと。これこそが学生ならではの旅であり、ザンビアの人たちも歓迎してくれるはずです。
そのうえで・・・ 私たちの活動の見学にいらしてください。アフリカの素晴らしさを知ったうえでなら、さらに理解を深めるきっかけになるでしょう。そういう期待をこめて、皆さんがいらっしゃることを歓迎したいと思います。
ロシナンテス理事/高山義浩