テロ支援国家指定解除なるか?厳しいスーダンの現状 #スーダン情勢
こんにちは、理事長の川原です。昨年30年間大統領の座にあったバシールが解任され、新しい政権(暫定)が誕生したスーダン。過去のしがらみを絶って、民主化して大きく羽ばたきたいと国民は望んでいますが、負の遺産も受け継いでいく悲しい運命にあります。
その一つは米国からテロ支援国家に指定されていることです。
スーダンが指定されている理由として、過去にスーダンがウサマ・ビン・ラーディンをサウジアラビアから追放された時に匿い、のちにスーダンを舞台としてアル・カイーダが組織されたことが原因と考えられます。
解除の可能性があったあの時
今までにテロ支援国家指定解除がなされる可能性が少なくとも二回の機会がありました。ひとつは原油資源の大半を占めている南スーダンの独立をスーダンが認めた2011年です。スーダンの国家収入が減少し、国土が半分近く削られることにより国力の減少につながり、テロ支援の余力がなくなると考えられましたが、指定解除には至りませんでした。もうひとつは、南スーダンの紛争の時に介入をせずに、さらに米国とのテロ対策で協力関係を築いた2017年です。この時は米国からの経済制裁の解除はありましたが、残念ながらテロ支援国家指定解除に至りませんでした。
暫定政権の抱える大きな課題
米国からの経済制裁が解除されたものの、長年の制裁が影響しているのか経済の悪化に歯止めがかからず、2018年末から反大統領の大規模デモが起こり、19年4月にバシール大統領は軍から解任されました。暫定期間を設け、民間人と軍部とで構成される最高評議会(暫定統治機構)がスーダンの政治を司っていくことになっています。現在議長は軍人が就任していますが、暫定期間の後半は民間人が就任予定です。なお、最高評議会から指定されたハムドック首相は民間人で、国防省と内務省を除く大臣は民間から選ばれています。
暫定政権が抱える課題の中でも大きいのがテロ支援国家指定の解除です。バシール前大統領を解任した今こそ良い機会であると、ハムドック首相が昨年末米国へ渡航し指定解除に向けた交渉を行いました。その際に米国からいくつかの条件が出されましたが、そのひとつが2つのテロ事件に関しての金銭的な補償です。
テロ支援国家指定解除の条件
2000年に米国の駆逐艦がイエメン沖でアル・カイーダからの攻撃を受けた件は、スーダンが米国に補償金を支払うことで合意しましたが、1998年に起きたケニア、タンザニア米国大使館爆破事件は、合意に至っていません。駆逐艦の賠償額は数億円でしたが、大使館事件の方は数千億と言われています。解除に向けては、この賠償ができるかどうかが問題です。
その他は、テロリストとの関係を断つこと、スーダン国内の和平の定着、人道委員会の設置、人道援助へのアクセスの保証といった条件が出されています。
外交断絶していたイスラエルと急接近?
他にも大きな動きが見られます。今年2月、スーダンの最高評議会議長がイスラエルのネタニヤフ首相と協力関係を築くためにウガンダで会談を行いました。米国と強い結びつきがあり、パレスチナ問題でイスラム諸国と敵対するイスラエルの首相とスーダンの首脳が会うということは驚愕のニュースとして世界に流れました。旧来のイスラム原理主義者は、この協力関係に基づきスーダンがイスラエルや米国に牛耳られると批判していますが、大多数の国民はイスラムと異宗教との融合する新たな社会を目指すべきであるとし、イスラエルとの関係構築に賛成しています。
踏ん張り時のスーダン
米国からの経済制裁、テロ支援国家指定というのは国の発展を大いに妨げるものです。経済制裁解除から2年が経過して、米国資本のケンタッキーフライドチキンとピザハットがオープンしたことが目に見えての変化ですが、この他にも国際銀行間送金の時間的な短縮があり、クレジットカードのVISAがスーダンの銀行から発行されるというニュースもありました。
暫定政権の最高評議会には2名の女性が入り、内閣にも多くの女性が選ばれました。政権内の女性の活躍が地方にも良い影響を与えていて、我々が建設した給水所を管理する委員会には、以前は男性のみで構成されていましたが、今では女性も入っています。イスラム社会の中での女性の活躍という素晴らしい効果を生み出している新政権は、3年3ヶ月後の民主的な選挙が行われるまでの暫定的なものとはいえ、紆余曲折しながらも民主化に向けて努力を続けています。しかしスーダン国民は経済的な困窮からまだ脱却できてはいません。今後彼らが痛みをどれだけ耐えられるかが問題です。
だからこそ、スーダンへの支援が今必要であると考えています。スーダンの変革が良い意味で世界に大きなうねりを引き起こすことを期待しています。