女性は土地を所有できない?ザンビアの男女格差のあれこれ
本日3/8は国際女性デー。国連によって1975年に制定され、世界各地様々な場所で毎年沢山の人に祝われ続けてきました。この記念日は、女性として生まれたというだけで経験しなければならない不条理や困難が日々世界各地で起こっていることを受け、「女性」であることを理由に正当化され、見過ごされ続ける差別や格差に向き合い、行動を起こすきっかけをもつ日として大切にされています。
今回はザンビアで問題となっている格差はどのようなものか、女性はどんな経験をしているのかについて調べてみました。
3つの大きな問題
まずは、世界経済フォーラムから毎年出される世界ジェンダー・ギャップ報告書2020年度版を見てみました[1]。日本は121位だった一方、ザンビアは45位。(実は2006年には日本もザンビアもおなじ80位台でした…) とくに男女で平等だったのは、生まれてくる男女の割合が同じであること、健康寿命の長さ、小学校教育を受けている割合などでした。一方で、政治的権利、高等教育、家族計画など、重要であるにもかかわらずデータの全くない分野がかなり多いこと、本当に指針になるのか疑問な部分もあることから、現状がはっきりと指数には出ていないと個人的には思いました。そこで、研究者や現地の活動団体の報告を見てみると、他の国にも多く見られる、家庭内暴力、土地の所有の否定、妊産婦の死亡率の3つが特に問題とされていました。
家庭内暴力
実はザンビアはサハラ諸国のなかでも、性別が理由、つまり女の子・女性だから、妻として暮らしているから、未亡人として生きているから、という理由で暴力を受けることが最も多い国のひとつだそうです[2]。国連も、性的搾取や早期の結婚などの暴力が近年ますます増加している[3]と警鐘を鳴らしています。特に、女性が日常的にパートナーから家庭内暴力を受ける割合は近年高いままだそうです。なぜそのような事が起きるかというと、一説としてザンビアでは女性に決定権がなく、男性や家長制度に基づく権力に従うべきものとして扱われる傾向があり、慣習や制度にも反映されているためだと指摘されています。
例えばとある部族では、結婚する際に新郎側から新婦の側に、これまで娘を育てた事への感謝や今後花嫁が夫に対し貢献する事への代償としてお金や品物、家畜などを渡す習慣があります。こうしたことが「結婚」において、制度上の婚姻手続きよりも重んじられる地域もあるそうです。しかし、金額交渉は新郎新婦当事者ではなく家長の親戚のみが参加します。また、高い金額を受け取った場合、離婚して返金をしなくて済むように新婦側の家族は、花嫁が夫に抵抗しないように圧力をかけ、浮気や暴力を受けても耐えるよう教える[4]、というケースもあるようです。
女性が主体になりうるという考えが薄く、いつ、なにを、どうしたいか自分の人生における決定をさせてもらえない構造が出来上がっていることが、女性の経済的、社会的な自立を妨げています。女性は生活のためには周りに依存しなければならず、そういうものだと受け入れて育ちます。
例えば教育は、選択肢を広げたり、貧困を抜け出したりすることに重要な役割を果たしますが、ザンビアでは小学校を卒業した後も教育を受ける女の子はおよそ37%しかいません[5](2010年の数字)。これは学校で、女の子だからという理由で差別やいじめ、身体的な暴力を日々受けやすいこと、合意のない性的な搾取や暴力でHIVにかかったり無理やり妊娠させられてしまったり、早期に結婚や妊娠をさせられてしまうことが大きな原因です。2014年の調査では、調査した15-19歳のザンビア人の女の子のうちの17%が結婚をしていた一方、同じ年で結婚をしていた男の子の割合は1%でした[6]。
こうした問題に対し、国内外のNGOが協力して女子生徒のリーダーシップを育てる授業を行ったり、性暴力に立ち向かうチームを作り、そのチームのメンバーが学校運営に携わったり、トラウマや悩みを抱える生徒がカウンセリングを受けるだけでなく生徒自身もカウンセリング術を学び生徒同士でケアをしあえる体制を作る、また地方にいるコミュニティや宗教のリーダーと話し合いともに取り組んでもらう、など様々な方面からアプローチしています。
女性は土地を所有できない?
もうひとつの大きな問題は、法律や慣習により土地の所有の権利を否定されていることです。ザンビアだけでなく、現在世界の女性の半分が与えられるべき土地を法律又は社会的な差別により与えられていないと専門家は述べています。ザンビアでは、憲法や法律上では女性が土地を所有することを認め、差別を禁止していますが、国土の94%が国有地でなく、慣習地[7]であり、書面に書かれていない各土地での伝統のルールに基づいて、チーフ(首長)とコミュニティが治めるため、国としての差別の禁止や権利の保障が及びません。また、遠回り22号に記載されたように、チーフや村長が各コミュニティの土地を各個人や家族ごとに割り当てますが、多くの場合結婚した女性には土地は割り当てられず、夫や家族を通して使用することがほとんどです。そのため、夫が亡くなった場合女性は使用していた土地から追い出されてしまうことも多々あります。相続の際も、男性が代々土地を受け継ぎます。慣習地は境界の境目や所有者、権利が公式に地図になっておらず、国や州に把握されていない場合も多いです[8]。そのため、仕組みを変えたり、女性が土地を所有し自由に使うという考えを推し進めたりすることがとても難しくなっています。
しかしこのことは女性の生活や尊厳において大きな問題です。農業生産が主な収入源である地域では特に、土地を所有し自由に使えない場合、収穫からの利益を自分のものにしたり、将来に向けて貯金をしたりすることが難しくなり、経済的に苦しい状態が続きます。さらに土地の所有の有無は、その人の立場やアイデンティティを表します。土地を持っているということは一定の発言権や地位があることを示し、コミュニティ内での大事な協議への参加権や決定権を持つことができます。様々な面での女性の格差を埋めるためにも、女性が個人で、権利の保障された土地を持つことを進めることがとても大切です。女性が土地を所有している地域ほど家庭内暴力の割合が低いという研究も出ています[9]。これまでにも、国有の土地のうち3割を女性に割り当て直すなどの法律はありましたが、効果は低く、NGOなどがコミュニティ内の男性を説得したり、女性により自分の権利を自覚してもらうよう働きかけたりと、様々な方面からアプローチしています[10]。
妊産婦死亡率の高さ
最後に、妊産婦の死亡率も大きな問題です。現在世界中で起こる妊産婦死亡の94%は、中程度又は低所得の国々におけるもので、必要な設備やインフラ、資金不足が大きな原因とされています。ザンビアを含むサブサハラ・アフリカ地域の国々での妊産婦の死亡は世界の3分の2を占めると言われています。ザンビアでは、2007年は1万人中に591人、2014年には1万人中に398人と死亡率は下がっている[11]ものの、世界的に見ると高いままです。現在も1週間で10から15人の女性が妊娠や出産に関連した理由で亡くなっています。出産の後の多量出血、感染症、分娩の合併症、安全でない中絶、など原因は様々ですが、特に15歳以下の女の子の体はこれらに耐えらない割合が高い[12]ため、早期の結婚・妊娠、また性的暴力等による望まない妊娠が問題となっている国では、死亡率も高くなっています。
今回ザンビアで女性の直面する現状の一部について調べてみて、4つのことを感じました。1つ目は、格差とは本当に様々な原因が積み重なって悪化していく、根強いものであること。2つ目は、世界ジェンダー・ギャップ報告書で121位だった日本でも、45位だったザンビアでも、課題は社会の様々なところにあり、改善されなくてはいけない格差の大きさや問題の根深さは同じであること。3つ目は、不条理だと感じたなら1人1人の視点や意識を根気強く働きかけて変えようと取り組むことが大切であること。そして最後に、差別をしたり、差別していることに対し気づかない、気づいても無関心でいたり、それを疑わないことが格差を作り被害を広げていくということです。
今回のように「女性」に絞らずとも、生まれつきの特徴や自分では変えることのできないものを理由に、差別されたり、決めつけられたり、不条理になにかをあきらめさせられたり悲しい思いをさせられることは、日々数えきれないほどあります。いまある格差を確実に減らすためには、どうしてそれを格差として、不条理なものとしてとらえる人がいるのか、もしくはどうでもいいととらえ続ける人、知っていても行動しない人がいるのか、なぜその格差は当たり前とされ続けるのか、考えながら常に取り組み続けることが大切かもしれません。