特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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スーダン2007.05.09

そこから何が見える?

4日前だったろうか、昼過ぎにバスに乗っていた。
用事があって大使館を訪れた帰り道。
あごのラインからは鍾乳洞のように汗が垂れる。
年季の入ったバスにはクーラーもUVカットのガラスもなく、
窓から飛び込む紫外線はダイレクトに僕の肌に刺さる。暑いというよりも、痛い。
あれ、新しいホクロが増えた?ここにこんな点はなかった気がするが。
ちょっと焦って腕を眺めながら事務所に向かっていた。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のオフィスに近づいたあたりから
何人かが首を伸ばして窓から空を見始めた。
車間距離を気にしながら運転手も何かを見上げている。
乗客の命を預かるドライバーにはあるまじき行為。けしからん。
と思いつつ、つられて僕も彼らの視線を追う。
「あ!」
鉄塔の上に人がいる。
高さ30?40メートルはありそうな銀色の細長い急角度な鉄塔。
白っぽい空を背景に赤い服を着た人が豆粒のように見える。
他に1人、2人いるのかもしれないが遠くて確認できない。
通りには塔を指さして喋りあう人たちがいる。
何ごとだろうかとざわめきだした乗客の会話から僕は情報収集。
「あいつは朝からいるよ」とドライバー。
彼の知っている事実と人々の期待の入り混じった、責任のない噂によると
エチオピアから来た男が
「俺にパスポートを発行しろ!アメリカに行かせろ!でないと飛び降りるぞ!」と
携帯電話の中継塔でわめいているらしい。
それが本当ならば、この行動は彼なりの難民申請なのだろう。
僕が気になるのは、何が彼をそうさせたのかよりも
「やっぱりやめよう」と心変わりをしても、
あのままじゃ彼はもう下には降りられないということだ。
この時間、日中に置かれた金属は、たとえ色が白かろうがおかまいなしに熱い。
そのままクッキーだって焼けそうなぐらいなのだ。
あの距離だ、手袋でもしないかぎり、下まで梯子を握り続けられないだろう。
だからといって上に居続けても脱水になってしまう。
次の日に同じ道を通過したとき、塔には誰もいなかった。
どうなったのだろうか。
荒井繁