軍事政権に終止符?今回の政権崩壊の流れと特徴(1)#スーダン情勢
こんにちは、一時帰国中のスーダン駐在スタッフ小川です。
およそ30年続いたバシール政権が崩壊し大きな転機を迎えている今のスーダンについて、現地で見聞きしたことをお伝えすべく、5/19に報告会を開催しました。
今回のイベントでお話した内容を、2回に分けてレポートしたいと思います。今回は一連の流れやデモの様子を中心に、次回は現地の生活や、今回の政権崩壊により私たち日本の組織にどんな影響があるのか、についてを書いていきたいと思います。
動画は、ノースコルドファン州でともに活動しているパートナー団体SIDOの事務所の近くで遭遇したデモ行進の様子。
スーダンの政権交代について
実はスーダン、今回だけでなく、過去にも複数回クーデターや民衆蜂起による政権崩壊が起こっている国なんです。
1958 アブード軍事政権樹立
1964 アブード軍事政権崩壊
1969 ヌメイリ政権樹立
1985 ヌメイリ政権崩壊
1989 バシール軍事政権樹立
2019 民衆蜂起によるバシール政権崩壊
混乱する国内をまとめ上げるために独裁政権が始まりますが、経済状況が悪化→国民の生活も悪化→食料品を安くするために政府が補助金を出す→財政がおかしくなり経済状況がさらに悪化→食料品の値上げ→それに対して人々が耐えられなくなり…というサイクルを繰り返してきました。
今回の政権崩壊も、2018年12月19日にパンの値段が3倍に値上げされ、それに対する抗議デモが行われたことがきっかけとなったわけですが、このパンの値上げの直接的な原因は、政府が今まで出してきた小麦の補助金を撤廃すると発表したためでした。
バシール前大統領とスーダン
そんなバシール前大統領の30年間はこんな感じでした。ダルフール紛争で名前を聞いたことのある方も多いかもしれません。
1989 大統領に就任
1990代 国際テロ組織アルカイダ首領だった故ウサマ・ビンラディン氏を匿う
1993 スーダンが「テロ支援国家」に指定される
2003 ダルフール紛争勃発(犠牲者は30万人以上)
※大量虐殺など非人道的行為を指揮
2009 国際刑事裁判所から逮捕状が出される
※ダルフール紛争での人道に対する罪や戦争犯罪の容疑
2017 米国から対米協力や人道支援での譲歩が評価され、20年以上続いた経済制裁は解除される
今回の政権崩壊へつながる大きな流れ
日に日に高くなる食料の値段から勢いづいた抗議活動の矛先は、一向に改善されない経済状況と、その背景にある独裁体制へ向けられることとなりました。
2018/12/19 パンの値上げを発端に地方で抗議デモ発生→全国的なデモへ波及
2019/2/22 国家非常事態宣言
2019/4/6 国民一斉大規模デモの開始
2019/4/11 国軍がバシール前大統領の身柄を拘束
・暫定軍事評議会の設置・2年間の暫定統治
・イブン・オウフ前国防相が同評議会トップに就任
※イブン・オウフ氏がバシール前大統領に近い人物だったことに抗議し、デモを継続
2019/4/12 イブン・オウフ前国防相辞任、後任アブドルラフマン就任
※この後も早期民主化を求めてデモを継続
2019/4/16 バシール前大統領 刑務所へ移送
2019/5/12 暫定政権期間の短縮・文民出身を暫定政権に入れることで民衆・軍が大枠合意?
冒頭の動画でもわかりますが、デモ行進へは女性や子供も含む老若男女が参加しました。またデモ隊へのサポートのために、企業や一般市民がテントを張り、水や食料を配布するなど、国民が一体となっていた様子がうかがえました。
もちろん物々しい場面もたくさんありましたが、歌い踊るようなお祭り騒ぎの一面も見られました。バシール政権を批判する歌を歌い国外追放されていた歌手が政権交代後スーダンに帰国、軍本部前でコンサートを行うといった場面も見られました。
今回のデモの特徴
最後に、今回のデモの特徴について簡単にまとめたいと思います。12月から始まり4月の解任につながるまで、誰がこの運動を指導しているのかわからないようSNSを活用して指示がされていたり、とにかく非暴力に徹していたりと、かなり統率が取れていたように感じました。
• デモ予告はSPA※により、SNSを通じて発信
※SPA: Sudanese Professionals Association(大学教員、ジャーナリスト、弁護士、医師らによって構成されたスーダン人の知識層グループ)
• 指示者(グループ)の名前を公表せずに実施
• 非暴力に徹したデモ隊
• 物価の高騰などの経済への不満から始まったが、デモの焦点は経済から政治へと移行
• 軍は元々大統領の指揮下にあったが、民衆側に賛同→最終的に大統領退陣へ:民意の勝利
• バシール退陣後、軍評議会による暫定統治の発表に対し、国民の不満は軍へ
バシール前大統領の退陣後も、軍主導の暫定政権に不満を持ち民主化を求める国民によるデモと交渉が続いています。今後どうなって行くのか、まだまだ先行きは不透明な状況と言えます。