ムスタファ
ムスタファとは、1年前に出会いました。
誠実という言葉とは、彼のためにあるのではと思わせるくらい、心やさしい男でした。
私の仕事をサポートしてくれるほか、日本から学生さんが来たときなどは、
本当に優しく接してくれました。
英語は、そんなに上手ではありませんでしたが、彼の心づかいは言葉を超えて我々日本人の心に響いてきました。
そして、徐々に日本語を覚えて、
「ありがとうございます」
「おはようございます」
「おやすみなさい」
などと言えるようになっていました。
昨年、私が一時帰国した際に、彼に診療所を一切任せることができました。
村人からも厚い信頼を得ていました。
彼から、お父さんが具合が悪いので中央の病院に連れて行きたいと
相談を受けました。
彼の村に、お父さんのお見舞いに行きました。
そして、「大きな病院に連れて行くより、この村で過ごさせてあげたほうがよいよ」
と言ってきました。
お父さんは、本当に安らかな顔をしていました。
そして、本当に心地よい村でした。
その2日後にお父さんが亡くなりました。
その後、私が体調を崩したときも、いろいろと気を使ってくれました。
私の体調ももどり、カルトゥムに戻ろうとしている車の中で、悲報が入ってきました。
急ぎ、ガダーレフに戻りました。
もう、彼の姿はありませんでした。
ただ、亡くなったという事実だけです。
彼の村をこういう形で訪れるとは思っていませんでした。
そこの村には、変わらぬ心地よい風が吹いていました。
ムスタファの魂も、この風のように、ずっとこの大地にそして我々の心の中に吹き続けるでしょう。
こう思うしか、仕様がありません。
お天道様も、たまにむごいことをなさるものです。
我々は、これを受け入れるしかありません。
ムスタファを知っている人たちは、みなの心の中にムスタファが生き続けるでしょう。
私の心の中にも、ムスタファがいつまでも存在し、そして私に優しさを加えてくれることでしょう。
川原尚行