日本・スーダン交流事業 川口健悟君
いつも、ロシナンテスを御支援して下さり、感謝しております。
さて、今日が最終日です。
対馬出身の川口健悟君です。
川口君は、イランを経由してスーダンに入ろうとして、随分と心配しましたが、何事もなくスーダンへの入国ができました。
というのも、スーダンとイランは外交を閉ざしています。それぞれ、スンニ派とシーア派であり、複雑な関係でもあります。
緊張状態にある両国をこの時期に行った川口君の独特の視点で捉えている滞在記をご覧下さい。
スーダン滞在記?2016年春?
九州大学医学部卒 聖路加国際病院研修医 川口健悟
アッサラーム・アレイコム。アラビア語で「こんにちは」を意味する言葉です。2016年3月に9日間、私はアフリカ、スーダンに滞在しました。あいさつひとつで見知らぬ人同士が仲良くなれる、そんな素晴らしい環境がスーダンにはありました。
私は、この3月に九州大学医学部医学科を卒業し、4月より研修医として勤務しています。今回、いわゆる卒業旅行の最後の渡航先としてスーダンを訪れました。ほとんどの大学生が行かないような国を選択した理由は2つあります。一つ目は、「ロシナンテスの活動を自分の目で見てみたい」と思っていたことです。大学時代に数度、ロシナンテスの川原先生のご講演を聴く機会がありました。初めて聴講した時は、アフリカの見知らぬ地で奮闘している先輩がいる、と衝撃を受けたのを覚えています。それから数回足を運ぶうち、ロシナンテスの活動を自分の目で見てみたいという思いを抱き始めました。もう一つは、「この先、容易に行けないかもしれない国に行きたい」と思ったことです。現在、スーダン入国には事前にスーダン国内の関係者からinvitationを受け、ビザを発給してもらうことが必要です。つまり、スーダン国内に知り合いがいない状況では、入国自体が大変難しいのです。今回、幸運にも入国の許可をいただき、スーダン訪問が実現しました。
スーダンは現在シリア、イランとともに、アメリカからテロ支援国家の指定を受けています。その影響からか、日本ではまるでベールに包まれたかのように情報が少ない国です。私自身、訪問前までは多少の恐怖と偏見がありました。ところが9日間の滞在後、それらがウソのように消え、日本人がスーダンという国に抱く一般的なイメージの多くは誤解なのだということを実感しました。むしろ非常に満足度の高い滞在となりました。その理由のひとつは「人々が非常に純粋」だということです。観光地化していないということがあるのかもしれませんが、人々は我々外国人にも誠意をもって接してくれ、ともに笑い、喜び合いました。ひとことあいさつを交わすと、そこから会話が始まって最後は握手をして別れる。そんな人間味あふれる人々に囲まれ、いろいろなことを経験した滞在でした。
今回、ロシナンテスのいくつかの活動に同行させていただきました。それらの中でロシナンテス現地スタッフやJICA職員、青年海外協力隊、医療機器メーカーの方々と交流し、現地の医療環境や経済状況、政治に応じた取り組みを議論するうちに、チーム医療の大切さを痛感しました。ロシナンテスのスローガンでもある、「ひとりはみんなの為に、みんなはひとりの為に」の言葉通り、自分一人で何かをしようとするのではなく、それぞれの得意分野で力を発揮し、それらを結集させるアプローチが不可欠だということです。これは、医療環境の悪いスーダンだけではなく、医療先進国の日本でも今後より重要になってくることではないでしょうか。
卒業旅行という側面もあったため、観光もしっかりしました。スーダンにただ二つの世界遺産である「メロエ」と「ゲベルバルカル」では、世界遺産にもかかわらず、ほとんど貸し切り状態で見て回ることができました。特にゲベルバルカル(現地語で聖なる山の意味)に昇って見た、アフリカの大地に沈む夕日は一生忘れることができない光景です。
これまでそれなりに海外を旅してきたのですが、今回、初めて体調を崩して現地病院を受診するという出来事がありました。予期せず、日ごろ医療者側からしか見ることのない、しかも途上国の医療現場を患者側の目線で見ることができました。その際、感じたことは、やはりまだまだ発展の余地はある、ということでした。採血等の基本的な手技についてもより精度の高いものにできるのでは、検査や精算の方法などのシステムはもっと効率化できるのではないかと思えたからです。率直には、やはり日本の医療は進んでいるのだなと実感しました。スーダンには先進国の最先端の医療を学んで持ち帰ろうという志を持った医師が多いとききます。その際、その医療をそのまま輸入するのではなく、スーダンの国内事情や医療水準を考慮しての導入が必須だと思われます。スーダンには都市部を離れると多くの無医村があります。今回は不運にも訪問することは叶わなかったのですが、ロシナンテスが始めに活動を開始したのもそんな場所です。地域格差がすさまじく大きく、医師や医療行政が担うべき範囲や、宗教・伝統に由来する生活の違いなど、他国の医療をスーダンに適応させて導入する試行錯誤の重要性を感じたのでした。
人生最後になるかもしれない長旅で学んだ最も重要なことは、「流れてくる情報をうのみにせず、(機会があれば自分の目で見て)自分の頭で考える」ということです。もし今回スーダンを訪問しなければ、アフリカという土地やイスラム教などについての間違った認識をこれからずっと持って生きることになったかもしれません。そうすると、それらに触れることで得る発想や人脈などの財産を得るチャンスを失い、また、偏見にマスクされた視野の狭い人生を送ることになったかもしれないのです。大げさかもしれませんが、我々医療者は、倫理の観点からも患者さんの利益の観点からも常に中立な立場で診療に向かうべきだと思います。そしてそれは、より広い視野を持って自分自身の人生をより豊かにしていくことにも不可欠です。公私ともに役立つ非常に大切なことを、今回スーダンで再認識することができました。
一味違った卒業旅行になるかな、と思い計画した今回の旅でしたが、振り返ると充実し、今後の人生に役立つ指針を得ることができたように思います。非常に有意義なものでした。最後になりましたが、今回、最初から最後まで旅をマネジメントしてくださったむとうざいのモハメッド みつ代様、多くの時間を我々の経験に割いてくださった川原先生にこの場をかりてお礼申し上げます。ありがとうございました。