旅立つ命②
アッタ君が入院して1週間が経ちました。
1~2日ごとには病院を訪れ、アッタ君の経過を見に行きました。
日を追うごとに、状態はよくなり、一人で座れるようにもなりました。
口から食事が食べられるようにもなりました。
まだまだ万全ではありませんし、栄養状態を考えれば、長い時間をかけてじっくり状態を改善させる必要があります。
前回は書きませんでしたが、実はアッタ君はダウン症候群です。
知的障害、発達障害があり、抵抗力が弱く、4割くらいの確率で先天性の心疾患を併発している可能性もあります。
ちなみに、余談ですが、家族はアッタ君がダウン症という病気を患っていることを知りません。
他の子供達と少し違うとは思っていたようですが、医師から、特に病気のことについて説明はこれまで一度も受けていないようです。
またまた余談ですが、お母さんの年齢は現在50歳です。子供は全部で8人います。
ハサバラ村周辺には、高齢出産、多産が珍しくありません。
男性・女性共に、高齢出産のリスクを知らない人々がたくさんいます。
子宝に恵まれれば恵まれるほど、その家の子孫繁栄の豊かさを示すため、とても良いこととされているようです。
話は戻りますが、医師からも、もっと大きな病院での精査・追加治療をすすめられました。
川原の伝手を頼り、ハルツームで小児医療に対し医療サービスが無料である機関を
紹介することにしました。
無事に一旦退院し、自宅に戻りました。
家族も大変嬉しそうです。
アッタ君が自宅に戻ってからも、何度か家を訪ねましたが、その日は顔色がすぐれません。どうしたのか聞くと、アッタ君が下痢をしていて食がすすまないのだとか・・・
「なぜヘルスセンターに連れて来てくれないんだ」と毎度のことながら思います。
下痢はこれまでも比較的いつもしていたから(下痢という理由で病院にいったことはないのだとか)とお母さんは答えます・・・・。
診療所に連れて行って、下痢止めを処方しました。
実は、アッタ君が住むワッダルハディ村には現在、井戸がありません。
現在ロシナンテスで、井戸を掘るプロジェクトを進めていますが、
一帯の人たちは、皆、川水を飲んでいます。
調査結果によると、ほぼ100%の人たちが川水を煮沸せずに生水のまま飲みます。
乳児にも、4~6カ月ごろから、同じような水を与えるため
慢性的に下痢を持っている子供がたくさんいます。
そのためか、食べたものが吸収される前に、下痢として体外にでることで、
ワッダルハディ村の子供たちの栄養状態は基本的にあまりよくないのかもしれません。
もともと口にする食べ物の栄養バランスも良くないです。このこともとても問題です。
さて、アッタ君の家では、ハルツームの病院に行く準備を着々とはじめてもらっています。
家族でハルツーム行を相談してもらいます。
親戚の家から、経済的な支援もお願いしました。
ハルツーム行の日が決まりました。家族はアッタ君がこれで元気になるのではないかと
期待に胸を膨らませているようでした。
私もこの時は、アッタ君にこれから起こるであろうことを想像する由もなく
家族と一緒に、「良かったねぇ」と手を取り合って喜んでいたのでした。
家族のこうした希望とは裏腹に、
アッタ君、このころから少しずつ、また身体を侵し始めていたのかもしれません。
つづく
辰野