きっかけは、目の前で困っている人を
助けたいという想い

外務省の医務官としてアフリカ・スーダンに赴任した川原が出会ったのは、政治事情により医療の届かない住民たちでした。多くの子どもがマラリアやコレラで亡くなるのを目の当たりにしながらスーダンの人々を診察することが許されないもどかしさに、官僚としての限界を痛感。一人の医者として何ができるか考えるようになります。

「大切なことは何か？やらなければならないことは何か？金があって始まることではないだろう。」

家族のこと、資金のこと。悩む川原にかけられたそんな言葉に背中を押され、 2005年に外務省を辞職。マラリアやコレラなどの発生も多い無医村で医療活動を開始しました。初めは資金不足で看護師などを十分に雇うことができなかったため、何役もこなしながら、来る日も来る日も患者を診ました。

こうした姿勢が認められたのか、「あやしい外国人」でしかなかったひとりの日本人は、次第に村人から医師として、そして人間として認められるようになりました。日本やスーダンの医療従事者が現地での活動を手伝ってくれるようにもなりました。

また日本では、現地で活動を始めた川原を応援するためにNPO法人ロシナンテスが立ち上がり、現在の活動の基盤となる体制ができあがりました。

医者がいない村

北東アフリカに位置するスーダンでは、日本の約5倍の面積に、約4,000万人の人口が点在しています。国土の大半は北のサハラ砂漠から続く砂漠地域で、夏場は温度が50度を超すような厳しい気候です。そんな中を、人々は主にラクダやロバを移動手段として生活しています。

広い砂漠に村が点在するスーダンでは、医療を受けることが困難な「無医村」が数多く存在します。東京都と同じ面積の地域にひとつも医療施設がない場合もあり、人々は病気になっても適切な診療を受けることができません。そのため、下痢や肺炎、マラリアなど、適切な処置があれば問題ないはずの病気で命を落とす人も多いのです。

砂漠をこえて、医療を届ける

ロシナンテスが活動を始めたハルツーム州の地域では、ほとんどの住民が車をもっていないにもかかわらず、車で2時間走った場所にしか診療所がありませんでした。そのため、スタッフが機材とともに車に乗り込んで村々を訪ねる巡回診療をきちんと機能させ、充実させる必要がありました。診療に必要な車の確保からスタッフへの技術指導まで、ソフト面・ハード面において様々な支援を行った結果、乳幼児や妊産婦の死亡率を大きく引き下げることができました。

しかし、巡回診療は29の村を15日間で回っていたため、ひとつの村に滞在できるのはわずか数時間。つまり、ひと月に数時間しか、住民は医療を受けられません。次に訪れた時には、以前診療した子どもの命が失われていることもあり、巡回診療だけでは限界がありました。

そのため現在は、日本の多くの皆さまからいただいたご支援で広大な無医村地域に診療所を建て、必要な時に診療が受けられる体制も整えているところです。

スーダンの人々に寄り添う支援を

ハルツーム州での巡回医療は、ロシナンテスの手を離れ、スーダンの人々の手で自走を始めています。この実績を活かし、ほかの地域においても巡回診療の強化を図るべく準備を進めているところです。また村の人々が「いつでも診てもらえる」場所を作ることを目指し建設を進めてきた診療所も、順次政府・自治体への受け渡しが行われ、スーダンの人々による運営が始まっています。

川原の想いひとつで始まった医療が、多くの方のご協力によってスーダンの広大な砂漠に点在する村々に届き、その地に根付き、人々の生活を支えています。医療は一朝一夕で成果が出るものではありません。またそれぞれの地域や状況に合わせて形を変えていくことも必要です。これからもロシナンテスは、無医村に医療を届ける仕組みを整えスーダンの人々に手わたしていくことで、医療が地域の生活に寄り添ったものになるよう、精力的に活動していきます。

川原よりメッセージ

政治状況、立場がどうであれ、目の前の苦しむ人に手を差し伸べたい！そんな想いが日本とスーダンに届き、仲間が集まり、内戦が続いたこの地で、多くの命を輝かせる支援活動が始まりました。

小説「ドン・キホーテ」から採られた団体名には、「一人ひとりは痩せ馬ロシナンテのように無力でも、ロシナンテが集まりロシナンテスになればきっと世界を笑顔にできる」という思いがこもっています。

私一人では何もできませんでした。まさにドン・キホーテが騎乗する痩せ馬ロシナンテです。しかし、志を同じくした仲間が集まったことで、ロシナンテがロシナンテスになり、活動を形にすることができました。からっぽの診療所を復活させ、無医村に巡回診療を届け、砂漠の真ん中に診療所や井戸を作りました。それらは地域社会に手渡され、現在でも活用されています。これまでご支援くださったすべての方々に感謝いたします。

応援する人、支援する人、現場で活動する人、スーダンの人、そしてもちろん私も含めたみんなで「ロシナンテス」です。これからもスーダンに「医」を届けていくために、私たちと一緒に走り出しませんか！

毎月のご支援をいただいた方には